日本のベンチャーキャピタルはシードベンチャーには絶対投資しない④


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日本のベンチャーキャピタルがシードベンチャーに投資しないというのであれば、我が国においては、事業のシードは一体どこに発生しているのであろうか。

また、そのシードに成長のためのキャピタルを提供しているのは、一体誰なのであろうか。

話がここまで進んでくると、ほとんど事業創造論の領域に入って来る。この分野の大家といえば、ベンチャー企業研究の権威、J.ティモンズであろう。

ティモンズによると、事業アイデアが何らかの技術と結びついて、結果的に画期的な製品やサービスになるといった風に一般に信じられているような事業創造は、実際には極めて少数であるという。

アップルコンピューターを創業したスティーブ・ジョブスのような華々しいケースはまれで、多くのベンチャー企業は、立ち上げの当初から試行錯誤を繰り返し、紆余曲折を経て収益モデルを構築してゆくという。

例えば、創業時のIBMの本業は電線の製造であり、同社はその後、時計の製造にも参入したという。

また、我が国においても、今や健康食品製造販売業大手のDHC社は、もともと翻訳を本業としていたことはあまり知られていない。

同社の「本業」は、現在の同社においても続けられているが、同社の社名DHCとは、そもそも「大学翻訳センター」の略称なのだ。

つまり、ベンチャー企業の場合、繰り返しになるが、当初のアイデアが持続的成長とともに最終的に結実するというケースはまれで、多くは、様々な修正を施しながら進化を重ね、時の経過とともに売り上げを獲得してゆくのである。

この場合、アイデアを発するのが例えば一人の個人であるとして、彼または彼女の、アイデア発案後の試行錯誤を支える経済的基盤が必要であることはすでに明らかであろう。

このような経済的基盤として、多くの学者が指摘するのが企業、特に大企業の存在である。

我が国のほとんどの大企業は、社内に新規事業開発を専門に行う部署を有している。また、新製品の開発を行う部署も、メーカーの場合は絶対と言っていいほど、有している。

特許の出願件数が象徴するように、我が国における事業シードの多くは大企業に誕生している。

大企業に誕生する事業シードは、多くはそのまま大企業の新事業として推進され、成長してゆく。この場合、財務内容がよほど悪化していない限り、外部からのリスクマネー供給の必要はほとんどない。

しかし、大企業に誕生した事業シードの中には、大企業で事業として行うには事業規模的に小さすぎるとか、または、本業とあまりにもかけ離れすぎているといったような理由から、大企業で行うことがためらわれるものもある。

その場合、その事業を生み出した当人たちは、発案の熱意も手伝って、何らかのかたちでその事業を継続させ、出来るだけ成長をさせたいと願うことであろう。

社内で出来ないのであれば社外に出ればよいと考える輩が出てくるのも自然なことであり、事実、そのような理由から社外へ出、外部資本と結託することによって事業化させるというケースも少なくないのである。

このようなかたちで大企業を離れ、社外であらたに企業するタイプの創業をスピンアウトと呼ぶ。

スピンアウトベンチャーには、親元の大企業と何らかの資本関係を有するタイプと、まったく関係を有さないタイプとに大分される。

前者については、外部資本を呼び込む必要性が少ないため、ベンチャーキャピタルが介在する必要性や意味が乏しい。

一方、後者については、まさに外部資本の積極的な介在が求められる。この場合、外部資本として積極的に参加してくるのが、我が国のベンチャーキャピタルである。

スピンアウトベンチャーの中で、ベンチャーキャピタルと親和性の高いのがいわゆるMBOである。

MBOとはManagement Buy-Outの略だが、文字通り現行経営陣によるバイアウトのことである。

我が国のベンチャーキャピタルは、最近は特にMBO投資を強化しているが、従来はエスタブリッシュされたビジネスにおけるMBOへの投資に力を入れる傾向があったように思われる。

つまり、従来のMBOとは、必ずしもベンチャー企業だけにおいて行われるとは限らず、むしろ、事業基盤の安定した、まさにエスタブリッシュされたビジネスにおいて行われるケースが多かった。

一方、前に述べたような、新たな事業アイデアをもって大企業をスピンアウトするケースも着実に増えてきており、今後の我が国VCにおいては、そういうベンチャー企業に投資をしようという機運が盛り上がってくると思われる。

MBOベンチャーは、例えば親元の大企業にとっては事業規模が小さすぎるといったケースで、かつ、MBOさせた後にIPOさせられる可能性が高いものが魅力的である。

このような事例で過去話題になったケースにJAFCOによる昭和薬品化工業のMBO投資が挙げられるであろう。

メルシャンと味の素のジョイントベンチャーであった同社は、事業規模が売り上げで70億円程度と、いずれの親会社にとっても小さすぎた。しかし、親離れをさせて独力で事業をさせれば、IPOできる可能性も秘めていた。

これに気づいたJAFCOは、早くから同社の経営に関与し、人的および資本的関係性を確実に構築していった。そして、単独で同社のMBO投資を行い、業界に衝撃を与えたのである。

このように、我が国におけるベンチャーのシードは、大企業に誕生するケースが多い。そして、我が国のベンチャーキャピタルは、シードへの投資という意味においては、そのような大企業発のシードベンチャーに投資をしたがる傾向にある。

中には、一部のネット系ベンチャーのような、まさにガレージで生まれたようなベンチャーに投資をするケースもあるが、あくまでも例外であると思われる。

特に、まだ売り上げも立っていないようなアイデア段階のシードベンチャーには、我が国のベンチャーキャピタルは絶対に投資しない。

あなたがアイデア段階のシードベンチャーに関与しているのであれば、ベンチャーキャピタルから投資を受けられるなどとは夢にも思わない方がいい。我が国のベンチャーキャピタルは、既述したように、アメリカのベンチャーキャピタルとは全く性質を異にしているのだ。








三枝
三枝

闘う元銀行支店長・三枝嗣典。関西アーバン銀行で支店長を務め、銀行業務の裏の裏まで知る男。資金調達のお悩み、すべて解決します。

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